患者さんの栄養管理をチームで行う「NST(nutrition support team=栄養サポートチーム)」という言葉を聴いたことがありますか?
 今、日本の医療現場においてこのNSTの手法や理念が浸透し始めており、適切な栄養管理の重要性が注目されるようになってきました。


 これまで、一般的に患者さんの栄養管理に関する関心が低かった現実が日本にはありました。NSTの認知度は高まってきたものの、残念ながら十分といえるものではありません。
 栄養管理は、患者さんのコンディションばかりか、生命をも左右する重要な治療といえます。栄養状態が悪ければ、病気や怪我、手術などからの回復が遅れますし、日常生活の動作やQOL(生活の質)も低下します。また、手術後の合併症や感染症の増加にもつながるのです。
 少子高齢化や食生活の変化による生活習慣病の増大など、社会環境が大きく変わりつつある今、このNSTの必要性が高まっていくと考えられているのです。
NSTとは
病院内には、さまざまな職種が集まり、それぞれの職能を発揮しています。「NST」は医師や看護師、栄養士など院内のエキスパートが集結し、患者さんの適切な栄養管理を行っていくチームです。
 今まで患者さんと一対一で取り組んできた栄養管理を、複数のスタッフが話し合いの場を設けて集まり、それぞれの職域での最適なアドバイスを持ち寄ることで、患者さんに、より細かで適切な栄養管理が行えるようになるのです。
NSTとは
 栄養管理と一言でいっても、その手法は多岐にわたるものです。
 魚沼病院では昨年十二月にNSTが立ち上がりました。週に一度、NSTメンバーによる対象患者さんへの回診とミーティングを行っています。
 メンバーが集まり病室を訪れると、そのメンバーの人数の多さに患者さんはまず驚かれます。一人の患者さんに対し、メンバーがずらっとベッドを囲み身体計測を行い、食事の摂取状況や体調の変化などを聞き取ります。
 腰椎圧迫骨折のため、安静目的で入院してきたHさん。入院時から食欲が低下し、体重が減ってしまいました。このまま体重減少が続いてしまうと怪我の回復も遅れますし、退院後日常生活を送る上で必要となる筋力さえ落としかねません。そこで主治医からNSTに栄養管理の要請がきました。
 「白いまんま〈ご飯〉はいいども、おかずはあんまり食べたくないんだて」と申し訳なさそうに話すHさん。栄養士は「おかずに筋肉をつける栄養がたくさん入っているからね…。そうしたら少しさっぱりした喉ごしのいいおかずを出しましょうかね。」はにかみ頷くHさんにメンバーも笑顔でこたえます。
 このとき体重計に乗るためにメンバーの手を借りていたHさんでしたが、一週間後には、少し時間がかかりましたが手を借りることなくご自分の力で体重計に乗れるように回復していました。
 栄養士の「お食事はいかがですか」の問いかけに「ちゃんと食べてますて」と笑顔で返事をしてくれました。メンバーの中にも安堵の表情があふれます。