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希望を抱き続けて

 報道では大きく取り上げられなったものの、震源地に隣接する栃尾市山間部も、新潟県中越大震災の大きな被害を受けた。震災直後、ほとんどの峠は、土砂崩れを起こし、栃尾市の幹線道路は遮断された。山古志村と背中合わせに位置する半蔵金(はんぞうがね)や栗山沢(くりやまざわ)といった集落は、完全に逃げ場を失い孤立状態になった。7・13水害で地盤が弛み、家屋の多くが斜面に建てられた田代、来伝(らいでん)、松尾といった集落へは避難勧告が相次いで出された。
 数ヶ月経った今、被災地域に暮らす方や仮設住宅に入られた方々は、19年ぶりの豪雪と闘いながらも復興に向けた努力が続けられている。そんな折り、栃尾市唯一の基幹病院である栃尾郷病院が、被災地域への巡回健康相談を始めたと聞き、取材に出かけた。
 2月8日、まず栃尾郷病院にある地域保健福祉センターを訪ねた。「被災者の健康状態や、心の状態がとても気がかりでした。私たちに何ができるか考え、行政に相談した事で、この『巡回健康相談』は実現したんですよ。」とセンター課長の伊東さんが満面の笑顔で語ってくれた。仮設住宅を含む被害の大きかった八つの地域を、毎週火曜日、一週間にひと地域ではあるが訪問していると言う。5つ目の訪問地である松尾に同行した。
 魚沼市にほど近い松尾への道のりは険しく、除雪車で切り開いた3メートルほどの雪の壁がどこまでも続いていた。途中、十分な道幅がとれず片側通行になっている箇所や、雪崩止めの雪下ろしをする作業員を見かけた。センター長の伊東さんをはじめ、医師、看護師二名、ケースワーカー、理学療法士、栄養士、保健師(市職)2名といった総勢9名のスタッフが向かったのは、雪深い山々に囲まれた松尾集落センターであった。

 松尾地区19世帯中、7世帯が半壊し、4世帯が仮設住宅に入っていた。雪で屋根は見えないが、ブルーシートに覆われた家が多いに違いない。降り積もる雪は、いつその重みで、家屋を倒壊してしまおうかと冷たい静寂を漂わせていた。
 健康相談に集まった住民は11人であった。これでも今までに無く多く集まった地域だという。先週まで降り続いた雪は、被災者の生活の中心を除雪作業一色に塗り替えていた。ここ松尾でも、訪問した今日が晴れでなければ、こんなにも集まらなかったに違いない。
 保健師の挨拶の後、相談者の血圧、身長体重が測られた。看護師の問診、医師の健康相談では、身体の不調を訴えると同時に、心の不安も聞かれた。「雪おろしで、身体は疲れているのに眠れない」、「少しの物音にさえ、恐怖をかんじる」等といった本音である。栄養指導では、「ご近所の人が集まったら、お菓子より、果物を食べましょう。地域の健康は、地域みんなで守りたいですね。」と管理栄養士が語った。リハビリ体操、そして自分の身体バランスを知るための健脚度測定が行われた。
 思うように動ける、思うようにいかない自分や近所の仲間を見てか、笑い声は絶える事無く、予定の二時間があっという間に過ぎた。「病院の職員に出向いてもらい、いろいろ話ができた」、「村のみんなの顔を久しぶりに見れた」と安堵の笑顔が印象的であった。

 被災後だからと特定したものでなく、孤独による病も多くなっている今日。栄養士が語った言葉にあったように、地域の健康は、やはり地域みんなで守るべきものだと痛感した。そして、協同組合病院である厚生連病院は、その手助けをしっかり担っていかなければならない、そこに医療を必要としている人が少数でも居る限り、足を運び、話を聞いて、手を差しのべていかなければならない事を再確認した。

【巡回地域】仮設住宅、半蔵金、栗山沢、西中野俣、松尾、軽井沢、繁窪、新山

    取材:長岡中央綜合病院(診療放射線技師) 大橋利弘
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