なぜ脳卒中の専門家が不整脈の話を?と疑問をお持ちになりましたか。
 現在、患者数が急激に増え、その対策に頭を悩ませている脳梗塞(こうそく)の原因に「心房細動」という不整脈があり、当院でも脳梗塞で入院される患者さんの3〜4割に認められます。

 通常、脈は時計のように一定のリズムで打っています。心房細動になると脈は太鼓の乱れ打ちのようなリズムで打つようになるため、心臓内で血液がうっ滞し、血のり(血栓)が形成されやすくなります。困ったことに心房細動が生じても自覚症状に乏しいことが多く、脳梗塞を来たして運ばれてきた時に初めて心房細動と診断される方が沢山います。

出身はどちらですか?
 心臓にできた血栓が心臓を飛び出し、他臓器の血管に詰まってしまっても、血栓をすぐ溶かしてしまえば病気にならずに済みます。平成17年に血栓を強力に溶解する「組織プラスミノーゲンアクチベーター(t―PA)」という注射薬が投与できるようになりました。

 副作用の点から「発症後三時間以内に投与」という厳密なルールが定められており、当院では年間百五十人ほどの患者さんが脳梗塞で入院されますが、t−PAを注射できる方は10人前後、このなかで効果が得られる方はわずか3割程度です。この数字が示すように、いったん出現した半身不随などの脳卒中の症状を薬だけで直すことは現在の医療レベルでは困難であり、脳卒中は予防がとても大切なことがお分かり頂けると思います。

出身はどちらですか?
 もし健康診断などで心房細動と診断されたならば、専門家に良く調べてもらい、必要に応じて血栓をできにくくする薬を処方してもらうことが大切です。「納豆を食べてはいけない」ことで有名なワーファリンという薬が唯一の予防薬であった時代が長く続きましたが、昨年から次々と新しい薬が発売されています。これらの薬では納豆を含めた食事制限は不要ですし、飲み合わせの悪い薬も随分と少なくなっています。新薬はワーファリンと比べて遜色のない脳梗塞予防効果が認められたばかりか、最も恐ろしい併発症である脳出血を半分以下に減ずるというデータも得られております。 

 一方で新薬は値段が高い(ワーファリン三ミリグラムで一日約30円、新薬は約500円)、出血を生じた時の中和薬がまだ存在しないと言った欠点もあります。既に日本全国で約六万人の方が新薬を飲み始めましたが、重篤な副作用も報告されるようになり、新薬の投与に慎重な意見を述べている医師もいます。腎機能の悪い方は服用できませんので、ワーファリンを服用していらっしゃる患者さんは、お薬を変える必要性について主治医と良く相談してください。

 私たちの体はとても上手にできています。血管が破けて出血するなどの刺激に反応して血を固める回路が動き、血は止まります。同時に固まり過ぎないよう抑制する回路やできた血栓を溶かす回路も動き出し、血栓が必要以上にできすぎる事の無いよう微妙なバランスを維持しています。ワーファリンなどの薬を服用するということは、あえてこのバランスを人為的に崩すわけですから、出血に十分な注意が必要となります。