はじめに
 われわれの心臓は片時も休むことなく脳をはじめとする全身の臓器に血液を送り続けております。心臓は心筋とよばれる特殊な筋肉でできており、それぞれの細胞には自動的に動く機能が備わっております。しかし、これらが勝手に動いては全体の統率が取れず効率的なポンプ運動ができなくなります。

 われわれの体の筋肉を動かすための仕組みとして神経があるように、心臓には刺激伝導系と呼ばれる仕組みがあります。実生活の電気と同様に、発電所(洞結節)、中継所(房室結節)、電気を伝える電線、などがあって家庭(心筋)に電気が伝わります。

はじめに
 発電所からの命令により、心臓は一日におよそ10万回規則正しく動きます(これが整脈です)。いかに精巧な組織・機械でもそうであるように、たとえ健常人でもこの電気の仕組みにエラーがでることがあります(これが不整脈です)。でも、その多くは一過性で、その一回だけ心臓のポンプの動きに変調をきたしますが(期外収縮といいます)、すぐに回復するため日常生活に与える影響はわずかです。脈が抜ける、ドキンと強い鼓動がした、といった症状の多くが、これにあたります。精神的、肉体的につらい環境ではこれらの症状も感じやすいようですので、多くの場合は、環境を整えるだけでも改善します。

 しかし、これらのエラーも続けて起こったりしている場合は、症状が強くなり困ってきます。エラーが続けて起こる場合はドキドキが続くといった動悸発作としてあらわれます。高度のエラーのため制御がとれなくなった状態では、心臓はポンプとして働くことができなくなります。一過性に脳の血液の流れが足りなくなればめまいや失神となり、長時間続く場合は致命的となることもあります。このような場合は、その原因となる心臓の電気の仕組みの異常を評価して、適切な治療を検討することになります。
はじめに
 以前から行われていた薬物治療はその効果が限定的でしたが、21世紀になりそれ以外の治療方法が進歩してきました。24時間心臓を監視して致命的な不整脈に対し電気ショック治療を自動的に行う植込型除細動器(ICD)は不整脈による突然死をほぼ抑えることができます。電気の仕組みのエラーの原因となる部分だけを、カテーテルと呼ばれる細い管で温めて、電気の仕組みを修正するアブレーション治療は多くの不整脈で根治を得ることができます(病気から卒業することが期待できます)。また、これらの治療が、胸を開くことなく多くは局所麻酔で、また入院期間も4〜10日程度で行うことができるようになりました。

 現時点では、これらの新しい治療もすべての不整脈を治せるわけではなく、またわずかではありますが手術に伴う合併症の問題もあり、不整脈で悩むすべての方に勧められるというわけにはいかないのですが、動悸発作や失神などを起こした方は、医療機関で相談することをお勧めいたします。