「電車に乗っている男性がおなかの痛みを訴え、便意もあるのにトイレにも行けずに苦しんでいる、その男性におなかの痛みが取れる薬を女神さまが届けてくれる」というテレビコマーシャルを見たことがありますか。朝の通勤ラッシュ時、ストレスに弱い腸が悲鳴を上げている様子が目に浮かびます。
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下痢になったり便秘になったり、おなかの痛みや不快感を伴う様々な症状を持つ病態を「過敏性腸症候群」といいます。
「過敏性腸症候群」は、大腸および小腸に器質的な異常(CTや内視鏡検査などでわかる異常)がないにも関わらず、下痢・便秘などの便通異常と、腹痛・腹部膨満感などのおなかの異常症状を訴える病態です。日本では10〜20%の患者さんがいるとの報告があり、発症年齢は20〜40歳代、男性よりも女性に多く、発症時になんらかのストレスが関わっていることが多いと言われています。日常的にもストレスと密接に関係しており、症状は午前中に多く、夜間やリラックスしている時には少なく、十分な問診により見当がつく疾患でもあります=診断基準…表1参照=。最近では、前出のコマーシャルなどの影響もあり、徐々に「過敏性腸症候群」は一般に認知されるようになってきました。
便通の異常から、下痢型、便秘型、下痢便秘交替型に分類され、下痢型は男性に多く、便秘型は女性に多くみられます。「過敏性腸症候群」は死にいたる病気ではありませんが、日々の便通異常・腹部症状による患者さんの苦しみは大きく、日常生活を快適に送れず、密かに悩んでいる患者さんも多くいらっしゃるかと思います。
「過敏性腸症候群」のおなかの症状は、腸の機能異常(運動機能と感覚機能)によると言われています。運動機能の異常は腸の動きの問題で、ストレスで腸がけいれんする(腸の動きが強すぎる)、あるいは反対にゆるんでしまう(腸の動きが弱い)異常です。一方、感覚の異常は、まさに腸の感覚が過敏となり、軽い刺激でも過度におなかの異常を感じることです。腹痛や腹部不快感などの症状は、一般に排便により軽快します。
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まずは自分の症状を理解することから治療が始まります。もちろん、がんや他の病気がないことが前提となります。薬物治療としては、下痢型、便秘型、下痢便秘交替型や腹痛・腹部不快感などの症状に合わせてお薬を選択していきます。お薬によってはすぐに効かないものもありますので、じっくりと効果が出てくるまで服用し続ける必要があります。それぞれ薬の特性があるため、医師がその特性を患者さんに十分に説明することはもちろんですが、患者さんもすぐに効かないからと言ってお薬を勝手に止めたりせず、のんびりと構えていただく必要があります。
今の世の中、ストレスを避けて生きることはほぼ不可能です。理想的には趣味などの気分転換をすることでストレスを和らげていただきたいと思いますが、それが無理であれば、ちょっとの間だけお薬に頼ってみてください。おなかの異常を恥ずかしがらず、一度病院へ相談に来てください。
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