春眠暁を覚えずといいますが、皆さんの睡眠はいかがでしょう。人間にとって睡眠はなぜ必要なのでしょうか。睡眠には疲労回復、恒常性維持(身体の機能や体液などのバランスを保つこと)、体温調節、エネルギー保存の機能があるといわれています。つまり、眠りは疲れを取ったり、体の内部の様々なバランスを保ったり、体温を一定に保ったり、体に必要なエネルギーを蓄えたりするのに必要だということです。

 では、人間は何時間眠ればいいのでしょう。7時間眠るのが良いといわれることが多いですが、実際には毎晩六時間以下しか眠らなくても日中の仕事、家事、勉強などに支障のない人や、毎晩九時間以上眠らないと仕事や家事、勉強などに支障を来たす人もいます。実は七時間の睡眠が良いというのは、百万人以上を対象に行った研究で、自己申告の睡眠時間が平均7時間の人は、睡眠時間が3・5時間以下の人や睡眠時間が8・5時間以上の人より死亡率が低かったという研究結果をもとにして言われているのです。それでは、睡眠時間が短い人を(薬などで)長時間眠らせたり、あるいは睡眠時間が長い人を無理やり早く起こしたりすればその人たちが長寿になるのかといえば、それはわかっていません。

 つまり、必ずしも7時間眠る必要はないということです(例外もありますので、医師から睡眠薬の処方を受けている方はご自身の判断で薬を中止しないでください)。とはいっても普段より寝つきが悪かったり、眠りが浅くなったりする経験はあるのではないでしょうか。不安な体験をした後、あるいは不安な体験を予期した状態(例えば、試験や就職面接の前など)は短期間の不眠症を起こしやすいのです。「不眠症」とは寝付けない、あるいは夜中に目が覚めてしまい深く眠れないといった症状の総称ですが、その原因として、先ほど述べた不安や、体の痛み、環境の変化(いわゆる「枕が変わると眠れない」というもので、必ずしも枕に限りません)などで不眠が生じることもあります。また、年齢を重ねるにしたがって、眠りが浅くなり、夜中や早朝に目が覚めやすくなることが知られています。

 不眠症は、生活習慣や環境を整えることによって改善することがあります=表=。すべてを一度に改善しようとしても挫折してしまいます。ひとつまたはふたつずつ取り組み、達成できたら次の項目に取り組むようにしましょう。

 また、実際には脳は速やかに眠りに入り、眠った状態を長時間維持しているのに、本人は寝つくのに時間がかかり、途中で何回も起きてしまい、短時間しか眠れなかったと感じる場合(「睡眠状態誤認」といいます)もあります。

 他の不眠症の原因としては、睡眠時無呼吸症候群(眠っている間にたくさんの無呼吸が生じる)、この病気は不眠症よりも過眠症(睡眠量が過剰であったり、昼間に過度の眠気があったりする)を起こすことが多いですが、他に、うつ病や統合失調症などの精神疾患が不眠の原因となっていることもあります。これらは医療機関での治療をお勧めします。