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細菌の中にはその細胞膜に蝋(ろう)様の物質を多く含むため、色素に染まりにくい一群があります。これらの菌は染色上だけでなく、酸にも抵抗力が強いので抗酸菌と呼ばれています。抗酸菌は酸に対してのみならず、アルカリやさまざまな消毒薬に抵抗性を持っています。その上乾燥に強く、乏しい栄養環境の中でも生き延びることができます。抗酸菌のうち培養可能な菌は結核菌と非結核性(非定型)抗酸菌に大別されます。
結核菌は人から人への強い感染性を有し、症状も重篤になることがあり、現在でも全国で年間約三万人が発症しているのですから、重要な感染症に違いありません。最近、マスコミが「結核は過去の病気ではない」と盛んに報道しています。
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これに対し非結核性抗酸菌は結核菌に比べるとはるかに弱毒で、人から人への感染性はありません。従って患者さんを隔離する必要もありません。非結核性とはいえ抗酸菌ですから、前述したようなしぶとい性質もあって、非結核性抗酸菌は人間の生活するあらゆる環境に存在するといわれています。私たちは生まれてから非結核性抗酸菌の感染にさらされ続け、それでもほとんどの人が発症することなく過ごしています。発症するのは免疫能を低下させる基礎疾患のある患者さんや高齢者ということになります。
結核は過去の感染した菌が患者さんの免疫能が低下した時に再び活動を始めますが、非結核性抗酸菌症ではそのような証拠はなく、その都度感染した菌が発症の原因になると考えられています。
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なんだか長い間咳(せき)や痰(たん)が続いている、夕方になると微熱が出る、近所の先生に診てもらったら「風邪でしょう」ということで、これまでいろいろな抗生剤や咳止めをもらったけれど、どうもよくならない、というような経過を外来で患者さんから聞きます。その上で胸のエックス線写真を撮り、痰を塗末と言われる検査に出すことになります。外来のエックス線で中下肺野あたりに小結節が写っている場合もありますが、何も写っていない患者さんの方が多いです。
それでも塗末で陽性の結果が出ると、その菌が結核菌なのか否か、鑑別するために核酸増幅法という検査を行います。これは目的とする菌の遺伝子を試験管内で複製する検査法です。核酸増幅法で結核菌の遺伝子が確認されなければ結核菌ではありません。さらに、非結核性抗酸菌の遺伝子を直接確認する方法も現在では普及しています。それもたった四十八時間程度で結果が出ます。
現在行っている検査の途中経過を求められた時は、慎重に対応する必要があります。経過説明の途中で「結核」という言葉がでると、それだけで不安になる方がいるからです。入院中の患者さんから抗酸菌が出た場合はさらに複雑です。患者さんはもちろん看護・介護スタッフにも誤解されないよう説明しなければなりません。核酸増幅法だけに頼ることなく臨床症状、エックス線像、ツ反など総合的に判断して、主治医が現在その患者さんについてどう考えているのか、スタッフに解ってもらう必要があります。
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