|
|
ピロリ菌(正式名称はヘリコバクター・ピロリ)は、1983年に胃内から同定されたグラム陰性らせん状菌です。ウレアーゼという酵素を有することで胃粘膜中の尿素を分解し、アンモニア産生により胃酸を中和します。その結果、菌は自身を胃酸から守り、胃への定着が可能となり、感染成立し、胃粘膜障害を引き起こすとされています。感染経路に関してはまだ不明な点が多いですが、水を介した経口感染が考えられています。
わが国では中年代以降から急激に感染率が上昇しており、第二次世界大戦の敗戦による衛生環境状態の悪化が一因と推測している報告もあります。
|
|
慢性活動性胃炎と密接な関連を有することは以前より良く知られていましたが、ピロリ菌は胃酸分泌能などの胃機能にも影響を与えることで胃内環境の変化をもたらし、様々な上部消化管疾患を引き起こします。上部消化管潰瘍(かいよう)において、ピロリ菌陽性の潰瘍危険率は陰性に比べ十二指腸潰瘍では約四倍、胃潰瘍では約2倍高いとされています。日本人を対象とした研究ではピロリ陽性群では陰性群に比べ胃癌(がん)のリスクは約十倍高いとの報告があります。しかし、胃癌を持たない群でも約九割に感染の既往があることから、感染者のなかで癌を発症するのは一部であると考えられていました。
最近ではピロリ菌感染胃粘膜において食塩は、用量依存性に胃発癌を促進する(つまり塩分摂取が多いほど胃癌ができやすい)事が動物実験で示唆されています。これは過度の食塩により、胃を保護する粘液組成が変化し、ピロリ菌が定着しやすい環境になるためと考えられています。
|
|
これまでは胃十二指腸潰瘍、胃MALTリンパ腫においてのみ除菌療法が勧められていたが、2009年1月ガイドラインの変更により、その適応は拡大され、ピロリ菌感染全般に除菌を強く勧められることとなりました。これは前項にも記載しましたが、慢性活動性胃炎を背景に種々の疾患が発生することが明らかになり、ピロリ菌の除菌は疾患予防につながると考えられたためです。具体的には、早期胃癌の内視鏡的治療後胃、萎縮性胃炎、胃過形成性ポリープ、機能性ディスペプシア、逆流性食道炎なども含まれるようになりました。
除菌薬はプロトンポンプ阻害剤とアモキシシリン(AMPC)、クラリスロマイシン(CAM)の7日服用ですが、最近はCAM耐性菌の増加により除菌率は約七割と低下してきています。2007年8月より二次除菌としてクラリスロマイシンをメトロニダゾールに変更し、約九割の除菌率となりましたが、不成功例も少なからず存在します。投与中に下痢、発疹などの副作用により服薬中断を余儀なくされたり、除菌後に胃酸過多による逆流症状の悪化などを来たすこともあります。
主治医とよく相談の上、治療を受けられることをお勧めします。
|
|