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現在わが国の女性のがんでは、乳がんが罹患率では第1位です。死亡率でみると、大腸がん、胃がん、肺がんに次いで第四位となっています。毎年約4万人の方が乳がんにかかり、約1万人が亡くなられています。30年前に比べるとなんと四倍近くにも増加しています。それでも欧米に比べるとまだ3分の1程度の頻度ですが、日本人女性の25人に1人が一生の内に乳がんにかかり、百人に一人が乳がんで死亡していることになります。
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その原因として、ライフスタイルの欧米化(高カロリー・高タンパク・高脂肪食の摂取、未婚晩婚化・高齢少出産の増加等)や体格向上に伴って初潮年齢が早くなり、閉経が遅くなったことなどが考えられています。また、乳がんの発生頻度は三十歳代以降に上昇し45歳から50歳にピークがみられます。この年代の女性は家庭的にも社会的にも重要な立場であることから乳がんは深刻な社会問題となっています。 こうした社会背景から国を挙げて対がん対策に取り組んできています。乳がんの検診や治療に関する社会的啓蒙活動も活発になってきて、乳がんに関する膨大な情報はインターネットから容易に得ることができます。
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乳がんの診断と治療に関しては十年前と比べても格段に進歩してきていますが、まだ乳がんの発生を予防することはできません。そのため乳がんの治療で最も大事なことは、言い古されたことではありますが、『早期発見・早期治療』ということになります。乳がんは早期発見治療がなされれば十分治癒が見込める疾患です。たとえばがんが2cm以下で転移のない場合は手術をすることにより9割以上が治癒します。
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乳がんは自分で見つけることができます。生理後一週間以内に、閉経後の人は月に一回入浴時に手に石鹸をつけて乳房をくまなく洗う等して自己検診をしてください。異常があれば乳腺外来を受診してください。乳がんの発見状況は検診が約20%、自己発見が約80%であり自己検診がとても重要となっています。ただし、自分では見つけられない小さながんもあり、これにはマンモグラフィーによる検診が有用です。40歳以上の方は二年に一回必ずマンモグラフィー併用乳がん健診を受けるようにしてください。微細石灰化だけで腫瘤として触れない、ごく早期のがんで見つかることがあります。 しかし新潟県の乳がん検診率は極めて低率(十数%)であり、早期乳がんを発見するためには受診率を上げなければなりません。さらに乳腺外来では超音波検査も行って検診の精度を上げ、できるだけ小さな内に診断できるようにしています。
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乳がんの治療には、手術と放射線療法と薬物療法があります。手術に関しては、整容や機能温存を保つために、放射線治療と薬物療法を併用することで、できるだけ臓器を温存し必要最小限の切除で根治治療を目指す方向に変わってきています。以前標準的手術とされた侵襲の大きな手術は行われなくなり、手術はどんどん縮小されて、今では乳房温存手術が標準化してきています。また腋窩のリンパ節郭清もセンチネルリンパ節(がんが最初に流れ着くリンパ節)生検を行って、ここに転移がない場合には腋窩廓清を省略し患肢のリンパ浮腫等の術後障害を防ぐ対応も行っています。
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術後の薬物用法は、がんの進行度やがんの性質に合わせ、ホルモン療法・抗がん剤療法・分子標的療法を行います。新しい治療薬の出現や投与法の工夫などにより薬物療法も飛躍的に進歩して確実に治療成績が上がってきています。
たとえ乳がんになっても、乳がんに対する正しい知識を得て、できるだけ不安を解消したうえで、がんと向き合って前向きに生きることが大切だと思います。
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