心的外傷後ストレス障害(PTSD)とは、自然災害、人為災害、犯罪被害、テロ、戦争などの出来事によって「死んでもおかしくないようなひどい体験」をした後に生じる、恐怖、無力感を中心とした心理的な障害です。

 具体的な症状は、その体験後に@その事を思い出したり、悪夢に見たり、フラッシュバックとして出来事の記憶・感覚が蘇ってきたり、という形での再体験症状、Aその事を思い出させるような場面を避けたり、感情が麻痺したように活動性が減退するなどの回避・精神麻痺症状、B不眠、怒りっぽい、びくびくする、過剰にびっくりする、集中力がない、などの覚醒亢進症状―の三症状が一カ月以上持続することです。ストレスを受けた時の反応は個人差がありますので、すべての人がPTSDをきたすわけではありません。また、PTSDの予防方法として確立した物はないようです。

 PTSDへの対応は、まず自然寛解を尊重し、それを促進するために心身ともに安全を確保し、安心できるような保護環境を整え、身体的負傷、生活上の被害、他者からの配慮を欠く言動、などによる二次被害が生じないようにする対応が必要です。

 また、本人や家族の不安緩和のために、病状を説明(異常な事態における正常な反応としてさまざまな精神的変化が生じ、多くの場合は時間経過と伴に自然回復するが、無理が重なった時には慢性化することもある)することも必要です。
 
 精神症状に対しては、薬物療法、精神療法が行われます。薬物療法としては、症状に応じて、睡眠薬、抗うつ薬、アドレナリン遮断性薬剤、抗精神病薬、抗不安薬などを使用します。
 精神療法としては、各種リラクゼーション法の指導、適切な訓練・指導を受けた治療者による認知行動療法やEMDR(眼球運動による脱感作と再処理法)などがあります。最終的には、本人や家族が外傷体験を克服し、元の日常に戻っていけるよう周囲が援助していくことが必要になります。
 真野みずほ病院   病院長 長島  清