上越総合病院副院長 循環器科 篭島 充
 目の前で突然誰かが倒れました。この人の運命は間近で、それを目撃したあな
たにかかっています。さあ、どうしますか?

ご出身は
 昔「ヒポクラテスたち」という映画がありましたが、その中にこのような場面に出会った医学生たちが「医者を呼ぼう!」と言ってあたふたするシーンが出てきます。これは笑い話だとしても、こんなときに慌てないための準備はしておきたいものです。

 人が突然倒れた場合、その原因としていろいろなことが考えられます。あるいは皆さんは脳卒中をまず連想するかもしれません。しかし、その大部分は突然の心停止なのです。その八割程度が心室細動、心室頻拍といった致命的な不整脈によるもので、その原因として急性心筋梗塞、重症の狭心症などの心臓病がかかわっています。

 今日、日本では毎年七万から十万人が突然死していると言われています。十万人といえば、人口千人に一人です。おそらく皆さんの想像以上に多い数ではないでしょうか。皆さんもこれから先、いつ、どこで冒頭のような場面に遭遇するかわからないのです。

 では、このような突然死を減らすことはできないのでしょうか。希望はあります。アメリカのシアトルという街では、心室細動や心室頻拍による突然死(正確には一度心臓が止まった人)の一割が後遺症なく元気に社会復帰しています。目の前で倒れた人をそのまま放っておけば100%助かりませんが、適切な処置をすれば一割、あるいはそれ以上の患者さんを救命できるのです。
 そのためにはどうしたら良いのでしょうか。一度心停止に陥った方を救命させるための一連の処置を「心肺蘇生」と言います。アメリカ心臓協会が発表した心肺蘇生の国際的なガイドラインには、心肺蘇生を成功させ、突然の心停止の方を救命するための「救命の連鎖」という考え方が紹介されています。
ご出身は
◆直ちに119番
 救命の連鎖の最初のステップは「直ちに通報」することです。倒れた人に声をかけても返事がなかったら(つまり意識がなかったら)、大きな声で人を呼びます。そして119番通報を依頼します。AED(自動体外式除細動器)という器械が近くにないか探してきてもらいます。
◆心臓マッサージと人工呼吸
 第二のステップは「迅速なCPR」です。CPRとは心肺蘇生のために行われる基本的な手技のことで、具体的には心臓マッサージと人工呼吸を指します。乳首と乳首を結ぶ線が胸の中央の骨と交わる部分、その真下に心臓があります。ここに両手を重ねて乗せ、腕を伸ばして毎分百回の速さで胸を押し下げ、心臓マッサージをします。心臓マッサージと心臓マッサージの間に、マウスツーマウスで二回の人工呼吸を行います。これらの処置をすることで、最低限の血液や酸素を
脳や心臓などの重要な臓器に送ることができます。
◆AEDの使用
 第三のステップは「早期除細動」です。「除細動」とは、心室細動や心室頻拍といった不整脈を電気ショックで停止させる手段です。AEDは全自動でこの処置を行ってくれる頭のいい器械です。CPRだけではこれらの不整脈は治らず、AEDが必要なのです。CPRとAEDは車の両輪のようなものです。
◆医療機関の高度治療
 第四のステップはこれら三つの処置を行いながら医療機関に運ばれた患者さんに、薬剤や特別な器具を使ってさらに高度な治療を行う段階です。 第一から第三までのステップは、医療従事者でなくても、誰もが行うことのできるものです。これらが迅速、適切に行われないと、第四のステップがきちんと行われても患者さんを助けることができません。突然の心停止の方を救命するには、最初の五分間に皆さんが第一から第三のステップを行えるか否かにかかっています。救急車の到着を待っていては決定的に遅いのです。
ご出身は
 でも、実際に目の前で急に人が倒れたら、慌ててしまいますよね。そうならないようにするためには、普段から練習をしておくことが大切です。消防署や日本赤十字社などが一般市民向けの心肺蘇生講習会を開催していますし、上越消防は町内会等の要望に応えて講習をしてくれます。また、当院では毎年秋の病院祭のときに、市民の皆様の希望を募って同じような講習会を開いています。このような講習会に参加していただくことをぜひお勧めします。

 心肺蘇生はかけがえのない生命を守るための、多くの人々の共同作業です。その底に流れるものは、お互いに助け合う気持ちです。(文/篭島 充)