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痛みは目に見えません。どんなに痛そうな顔をしていても、本人以外に痛みの大きさを表現することはできません。生理学的にいうと痛みは神経の末端が損傷などで刺激されて電気的に興奮し、その興奮が脊髄を経て大脳に伝えられ「痛い」と認識されます。多くの場合、痛みは体に何か危害が加えられたときに起こりますから、「痛い」と言う感覚には、そのときに受けた不快な体験という「感情」が加算されます。そのため、同じ原因による痛みでも「どの程度痛い痛み」なのかは、ひとりひとりの痛みの経験とそのときに体験した感情の修飾を受けて異なってきます。これが人の痛みはなかなか理解できない所です。
また傷がすっかり治ってしまって、痛みの原因がまったくないような状態なのに強い痛みを訴える人もいます。体の半側に帯状にブツブツと水泡ができて強い痛みがでる帯状疱疹はこうした痛みを残しやすいことで有名です。これは帯状疱疹を起こすウィルスが神経細胞や神経線維に傷を付けてしまったため、傷ついた神経が異常な信号を脊髄に送ったり、たくさん送られてくる信号が脊髄や脳でうまく調整されないために起こってくるものです。傷もなく一見元気そうに見えるために、痛みを信じてもらえずうつ病になる人もおられます。痛みが適切に治療されないと、痛みがあることで交感神経や筋肉が緊張し、血液の循環の障害を起こしてさらに痛みが悪化するような、痛みの悪循環を引き起こすこともあります。
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ペインクリニックではさまざまな方法で痛みの治療を行います。他の診療科とちょっと違うところは、痛みを伝える神経を麻酔する「神経ブロック」という方を用いたりすることです。星状神経節ブロックといって頚の付け根のところにある交感神経を局所麻酔薬で一時的に麻酔する方法は、頭や顔、上肢の痛みに効果があります。硬膜外ブロックといって脊髄から出てくる神経を麻酔する方法は、椎間板ヘルニアなどによる痛みのときに用います。普通に使われている鎮痛薬のほかに、うつ病の薬やけいれんを止める薬が効果のある痛みもあります。痛みの種類に応じてさまざまな組み合わせが必要になります。
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しかしなんといっても痛みはその人が訴えない限り見えてきませんし、その人が満足しなければよくはなりません。見えない痛みを見えるようにするためにいくつかの方法が考えられてきました。「痛覚閾値」といって、熱や圧力・電気的刺激に対する痛みの感じ方で評価する方法もあります。しかし、やはり「その人の痛み」を評価するのには、患者さん自身の訴えに頼るしかありません。ペインクリニックでは「患者さんの痛み」を数字や表情の物差しで計りながら、さまざまな治療法を組み合わせて少しずつ消していくようにしています。
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