食道・胃・大腸などの消化管に発生するがん、たとえそれが早期がんであっても約二十年前までは外科的手術のみが唯一の治療法でした。

 近年内視鏡検査の進歩によって、ごく早期のがんをおなかを切らずに内視鏡を用いて切除する治療法が盛んに行われております。その代表的なものが、内視鏡的粘膜切除術(EMR)です。

 消化管のがんは、その消化管の内側の最も表面(粘膜)から発生するという特徴があります。がんが粘膜層にとどまっているときリンパ節転移は認めないため周囲のリンパ節を取り除く(リンパ節郭清)必要がなく、病変そのものを粘膜ごと切除するだけでがんを根治したといえます。
NSTとは
 しかし早期がんがすべてEMRによって切除可能かというとそうではありません。確実かつ安全に治療を行うために一定以上大きいものや、病変の根の深さ(深達度)が粘膜より下に達するもの、がん細胞がばらばらになって正常の組織の中に大きくなっていくもの(未分化がん)、潰瘍を合併しているものはEMRの適応にはなりにくく、一般には外科手術の適応になることが多くなります。しかし高齢者や外科手術が難しい症例、その他患者本人の強い希望がある例などでは最近は適応が拡大されつつあります。
NSTとは
 EMRを比較的安全に行えるようになって対象となる病変の種類も拡大されています。従来までの早期がんに加えて、前がん病変や良性の病変に対しても行われることがあります。
 しかしどんな治療でも100%安全ということはありません。EMRにも合併症(いくら注意しても一定の確率で起こりうる不都合なこと)があり、その多くは出血と穿孔です。EMRの必要性と危険性を天秤に掛けて治療を決定する姿勢が大切と言えます。

 患者様の側としても治療についてはただ医師に任せるのではなく、具体的な方法や合併症について主治医から十分な説明を受けて納得することが大切です。

 最後に提示するのは、胃がんのEMRを患者様に説明する際に私が作成して実際に使っている説明用紙です。その中にEMRの具体的な方法、合併症、治療のスケジュールなどを盛り込んでおります。この説明用紙を患者様に差し上げるようになってから患者さまの理解度が増したように思われます。

 以上、EMRについて私なりに説明してみました。みなさまの参考にしていただければうれしく思います。