ご出身は
 大正時代に佐渡を訪れた大町桂月の句に「鴬や十戸の村の能舞台」と詠まれているように、佐渡は昔から能が盛んで、室町時代初期、世阿弥が、佐渡に配流された縁や初代佐渡奉行大久保長安(一五四五〜一六一三)が自分も能楽師だったせいか、能楽を奨励したことが大きく影響し、島内には現在三十以上の能舞台があります。そしてそのほとんどが神社に付属したものであることからも、能が神事芸能として発展し、今なお息づいています。
ご出身は
 二十年程前佐渡に嫁いで、生まれて初めてみた薪能に感動し、自分で舞うようになった、土屋タカさん。 同時に不思議の世界という新鮮な驚きがあったと言います。「主人が同僚から勧められて息子と二人で能を始めるようになり、私はしばらく彼らの衣装を運んだり着付けをしたりと、手伝いをしていました。能の装束は古い物でありながら(百年くらい前のものもある)全く古さを感じさせないデザイン。いつの間にか魅せられていきました。」また、能をやっているお年寄りが元気でいきいきとし、温かい人ばかりだったことにも心を動かされ、能の世界に足を踏み入れる事になったのです。
ご出身は
 土屋さんが能を始めたばかりの頃、ある方よりこんな事を聞きました。「始まる前も地獄、おわった後も地獄」です。これは、舞台にたつ時はドキドキして緊張しているし、おわった後はどこそこが上手くいかなかったとヒヤヒヤする。いくら稽古を重ねても完璧ということはなく終りがない。それでまたやりたくなるということでした。能の仕手と謡となった時の壮言さ、なんともいえない間の美しさが素晴らしいです。「私は、謡と仕舞をやっていて楽しみが増え視野が広がりました。能は省けるものは全て省き、無駄な動きはなく動作全てに意味があります。現代の人は、主張したり意見を言ったりするのは得意ですが、人の動作や所作からその人の状況を理解するのはあまり得意ではないかもしれません。」能は舞いの中に感情が表現されていて、そこから心の状態を感じ取ることのできるのが素晴らしい点なのです。
ご出身は
 現在島内には百五十人の仲間がいます。
 「これからも練習を重ねて舞台にたち、多くの人たちにみてもらいたいです。その中から能をやってみたいという人が出てくると非常に嬉しいです。特に若い人に興味をもってもらい、能の楽しみと感動を若い人に伝えて行きたいと思っています。世阿弥が佐渡に培ったものを大切に残していきたいのです。」
 伝承文化は、人から人へ思いと共に託されていきます。
(取材/松林・仲野間)

※土屋さんは家族全員が何らかの形で能に関わっていて、現在、タカさんは仕事もリタイヤとなり、能への情熱が益々強くなっています。