上越総合病院、ある日の分娩室。
 「ドンドンドン」と胎児の心臓の音が器械を通して部屋に響く。元気な音。出産が始まるのだ。産婦さんを囲み医師と助産師、看護師、緊張の時間。やがて「おぎゃーおぎゃー」元気な産声が室内に響きわたり、張りつめていた空気が一気に緩み、その瞬間を待ちわびていた人々を幸せの時間が包む。「おめでとうございます。よく頑張りましたね」。
 上越総合病院産婦人科には、相田浩部長をはじめとした医師が三人。とはいえ、月平均三十件程の時間を問わない「出産」。夜間、休日も呼び出しに応じるには三人でも足りない程だという。しかも「無事」が当たり前とされる出産も、時には緊急事態が生じないわけではない。そんな時には、小児科医師や臨床検査技師や放射線技師等のスタッフも待機。連携プレーですぐに必要な診療が行えるように備える。
 しかし、産婦人科医の仕事は「出産」だけではない。外来には、妊産婦さんはもちろん、様々な疾患の患者さんや、不妊症の悩みを持った患者さんも受診する。一人一人のお話をじっくり聞き、充分に説明を行う。何より、患者さんが安心
できる医療を提供することが大切なのだ。
 病棟には、常に二十人前後の患者さんが入院している。医師達は、定期の回診の他にも、時間があれば頻繁に病棟に足を運ぶ。「○○さん今日は、お熱も下がって気分が良いそうです」「○○さんのベビーは、おっぱい吐かずに飲んでいます」。看護師の細部にわたる報告に頷きながら更にカルテに目を通す。手術後の患者さんもおられ、刻々と変化する状態に応じた指示を次々に出していくのだ。
 絶え間なく時間を惜しんで動く医師。嬉しいことばかりではない。何が起きる
のか、お腹の中でまだ形にもならないうちに妊娠が継続できず流産となる患者さん。「どうして?」と涙する患者さんに言葉をかけられないこともあるという。
 生命誕生の喜びの分かち合いができることと、容赦ない自然が起こす命の厳しい現場に立ち合うことも「産婦人科医」ならではのこと。体力と同時に心の強さ、たおやかさも求められる。 「産婦人科医は、慢性的な医師不足のもと、二十四時間待機が余儀なくされていて、なり手が少ないのです。また、赤ちゃんと母親の両方を診ていかなければならないので、事故のないように細心の注意が必要で、仕事の厳しさと共にその責任はとても大きい。ただ、きつい毎日でも、赤ちゃんが元気に産まれてきた時や、患者さんの具合がよくなって退院される時には、本当に嬉しいものです」。
 相田医師の本音と共に笑顔が輝く。
 今、少子高齢化の日本。結婚を控える女性が増え、又、出産が高年齢化し、出産件数そのものが減少することなど、産婦人科にも大きな変換期が訪れているのは間違いない。 しかし、決して変わらないもの「命」。このかけがえのないものを、二十四時間見守る産婦人科医療がここにある。
(取材/南雲・古俣)
(協力/上越総合病院)