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梅雨の曇った六月下旬、白い殿堂に恐る恐る家族に押されて入院した。
外来に月一回通院。一階にはためらいはなかった。
一日目から別世界のとりこになったと思った。白い妖精が目まぐるしく廊下を、病室を速足で飛び回っている中に独り。
看護と介護と世間で取沙汰されているが、この病院ではそれは考えられない。皆さんの若々しさと行動の速さに感動する。担当患者の区別なしに誰のベッドにもとんで行く姿に感動を覚える。
こんな環境の中で、手術を受けることに安心した。二週間の中で諸検査を繰り返して手術に入った。
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この手術を待っている間に七夕祭りがあった。デイルームに笹竹が立てられ、大勢の人の願いが短冊に飾られた。私も仲間に入れてもらった。
―七夕で見た星はとてもきれいだね! 来年もどこかで眺めようよ―
長時間の手術は成功したが、翌日から予想しないことで眠れない日が続いて、大変苦しかった。
丸山主治医先生と純白の花々のおかげで、我が家へ帰れる日がやってくる。
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ナースステーションは花園だと思う。洗面所に飾られた善意の生花は、見る人の心を和ませてくれる。ありがとう。
十年前の入院のことをそっと思い出している。隔世の感がする。
広い窓いっぱいに米山を眺め、眼下に広がる大青田の瑞々しさに目を癒してもらえる最高の療養の部屋に入った。青田の真ん中を横切って、長く悠々と貨物列車がいき、黒い超特急が矢のように滑っていく。病人のはかなき夢を揺り動かした。
花は美しい。特にカサブランカがいい。庭で迎えてくれているか。
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