「私達、どうしたらいいのでしょう」。退院間近になったご家族からよく言われる。日本の社会は少子高齢化時代を迎えている。そして、核家族化が、さらに、老人福祉の行方を暗澹とさせる。しかし、病院では「困った」を決してそのままにはしない。患者さんやご家族と共に奮闘する医療従事者達の存在がある。
NSTとは
 ある日の病院の一室。外からおずおずとドアが開けられます。「あのう・・ここでいいのでしょうか。ちょっとお聞きしたいことがあるのですが・・」「おはようございます。どうされました? さあ、どうぞお入りください」。笑顔と明るい声が響きます。
 医療福祉相談室。ここは、ソーシャルワーカー(社会福祉士)がいて、患者さんやそのご家族の医療と福祉に関する相談をお受けしているところです。相談の内容は様々です。
 「一家の大黒柱が入院してしまったが生活が苦しい」「通院しながら、家で年寄りの介護もしているが疲れてしまってどうしていいかわからない」「通院が必要だが、車の運転ができず、体が不自由で一人ではバスも乗れない」等々。

NSTとは
 外来だけではありません。入院患者さんにも多くの困りごとが生じます。病気はあっても落ち着いた。さあ家に帰る・・という選択をしたら・・。
 Aさんという入院患者さんは癌の末期状態。ご家族は医師より余命はあと数ヶ月でしょうと宣告されました。ご家族はAさんを可能な限り自宅へ連れ帰りたい。残り少ない時間を自宅で一緒に過ごしたいという強い思いがありました。しかし、日常生活は、排泄から食事、入浴までほとんど介助なしではいられないという現実があります。自宅に帰ったら介護をするのはご家族で、当然不安が募ります。その在宅介護に向けて、患者さんのご家族の悩みをお聞きした看護師が、ソーシャルワーカーに連絡します。ソーシャルワーカーは、ご家族と面談を行い、生活状況や、今後どうしたいのか、心配事などをお聞きします。そして、介護保険の申請から、福祉用具を利用できるかどうかの調査、そのレンタルの手配、また、続けて看護師の目と手が行き届くように訪問看護の利用などを考えます。

NSTとは
 やがて、ケアマネージャーが決まり、具体的なプランをご家族と相談しつつ決めていきます。「お風呂は寝たまま入ることが出来ますよ」「ホームヘルパーをお願いしたらどうでしょう。ご家族の負担が減りますよ」。と、様々な提案がされます。
 また、退院間近には、ご家族と、ソーシャルワーカーとケアマネージャー、担当看護師、訪問看護師、ホームヘルパーなど、患者さんに関係する人たちが集まり話し合いを持ちます。「家に帰って、痛い! と言った時にはどうしたらいいのでしょうか?」ご家族の一番の不安はやはり病状です。「そういう時には、まず医師の指示の薬を使ってみてください。心配な時にはいつでも連絡をしてください。必要時には、すぐに医師に連絡をとりますし、訪問にも伺いますよ」訪問看護師の言葉にホッとした笑顔をみせてくれました。「よかった。退院したら縁が切れておしまい・・というわけではないのですね」
 現在は、ほとんどの場合、「はい。治療が終わりました。退院していいですよ」という時代ではなくなっています。年齢が比較的若く、一人で生活していける方や、家庭の中でしっかり自分のことができる方はよいのですが、なんらかの形で、介助、人の手を必要とされる方には必ず、担当看護師より、退院に向けての計画の相談用紙が作成されます。
 もちろん問題がないわけではありません。老人世帯。お年寄りだけの二人暮らし。あるいは、患者さんが一人暮らし。もしくは、ご家族の事情で介護をすることが出来ない・・。時には、ご家庭で介護が困難になっているにも関わらず、誰にも言えず悶々とした日々を送られて、周囲の人が気がついたときには、介護される方も、していた方もヘトヘトで家中惨憺たる状態になっていた等々。

NSTとは
 介護の悩みは、人それぞれです。慣れない介護の現場で戸惑ったり、ご家族や親族との意見の狭間で悩んだり・・。
 しかしソーシャルワーカーはじめ、ケアマネージャー、看護師達は、患者さんやご家族の生活状況や病状を考えて、その方にとって一番快適に過ごせる療養環境の為にはどうしたらよいのか、その為の方法は何があるのかをそれぞれの立場で考えます。患者さんが自宅で過ごす(在宅生活)、あるいは、やむなく施設で過ごす(入所生活)に向けて、勇気をもって一歩を踏み出せるようにするための応援団として存在するのです。
 どうか忘れないで欲しいのです。どんなに辛くても苦しくても決してあきらめないこと。道は一つではありません。必ず生きる術があります。どうか声をかけてください。私達はいつもきっと、そばにいるのですから。
(柏原・杉ノ上)